春の話


スタッフNさんのコラムが素敵だったのでコピペ。


1999年3月の話。




「30過ぎたら、運命の出会いとか、自然な出会いとか、
友達から始まって序々に惹かれあうとか、そういうの一切ないからな。
危機感を持ちなさいよ、危機感を!」


 そんなセリフを「運命じゃない人」という映画で聞いてニヤニヤしました。
ニヤニヤしながらも、そうかもなぁと感心したのです。
僕はまだ30になってませんが、2008年だって年が明けたと思ったらもう3月半ば。
この分だとあっちゅーまに30なんだろうなぁとしみじみ。
月並みだけど日々を大切に過ごそう、と思う今日この頃です。


 おはようございます。スタッフNです。
もう春ですね。みなさんはもうすぐ始まる新生活に期待で胸を膨らませたりしているのでしょうか。
進学、卒業、入学、就職、引っ越し…楽しいことも悲しいこともいろんなことが始まる季節です。
だけど、水を差すようでごめんなさいね。
僕にとって春という季節は、そんなふうにウキウキするものではないんです。
割と陽気な性格のはずなのに、どうもグタッとしてしまう。
だってあの頃の僕には、何も始まるはずなんてなかったのだから。





 中学生の頃からそうだった。
テレビだったり映画だったり演劇だったり、そんな世界への憧れだけが強かった僕は、
高校を卒業したら東京へ行こうと考えていた。
東京に行けばおもしろいことが起こるに違いない、今思えば浅はかな考えだった。
とはいえいきなり上京しようなんて度胸もないわけで、まずは東京の大学へ進むしかないと
両親を説得したら案外簡単にOKをもらえた。しかし条件がある。
必ず地元・札幌の大学も受験すること。
数学が大の不得意だった僕は私立文系で勝負するしかなく、受けることができたのは3校のみ。
受験するにも何せ金がかかる。受験料だけではなく東京への飛行機代、宿泊代等…。
札幌の大学を除くと僕には東京の2校しか道はなかった。


 2つの受験を終え、残り1つ本命の大学の受験前夜、東京に宿泊していると父親から電話がきた。
「よかったなぁ、サクラサク春だぞ。札幌受かってたわ〜。」
とのんきに教えてくれたが「あ、そう。」とだけ言い残して僕は電話を切った。
「東京に来ないと俺の桜は咲くわけないだろ、春なんか来ねぇって。」
そんなふうにしか考えられなかったからだ。
翌日の受験では力を出し切ったものの到底及ばず、不合格。もう1つの東京の大学も不合格だった。
来年こそ東京行きを実現しようと意地になって浪人する!と両親に訴えるも当然許してもらえない。
高校卒業の日だってクラスのみんなは別れを惜しんで泣いたり、旅立ちを嬉しそうにしてたけど
僕は相も変わらず、どっちらけ。失意のどん底。希望のキの字すらなかった。
いまも僕が春なのにグタッとしてしまうのはこのときの気持ちが蘇えるからなのかもしれない。
まぁ別にトラウマだなんて、そんな大げさなものじゃないんだろうけど。


 そんなある日の夜、テレビを見ていると「どうでしょうリターンズ」が流れてきた。
水曜どうでしょうはよく見る番組だが、いま思うとこの日は見ておいて正解だった。
番組の終わりに、TEAM NACSの舞台告知テロップが流れたのだ。
しかし当時の僕はTEAM NACSという存在すら知らず「あ〜、大泉とヤスケンのコンビ名なのかな」
くらいにしか思っていなかった。しかもその告知が舞台公演のものと気づかずトークショーだと
とんだ勘違いをしていた。時間と場所だけをメモしてチケットも持たずその日その場所に向かった。


 1999年3月、TEAM NACS冒険公演「ESCAPER〜探し続けていた場所」。
今は無きルネッサンスマリアテアトロに着くと、ものすごい行列が出来ていた。
「へ〜、やっぱ人気あんだなぁ」と感心しながら列に並ぶ…が並ぶ列を間違っていた。
その列は当日券の列ではなく、チケットをすでに持っている人の入場待ちの列だったらしい。
しかも今から当日券の列に並んだところで、もうチケットは買えないなんて声が聞こえてきた。
「あちゃ〜残念…」と帰ろうとしたら、隣りに並んでいた人が友達の分のチケットを持っているが
その友達が仕事で来れなくなったので1枚余ったから譲ってくれると話かけてくれたのだ。
おかげで前売料金で観ることができた。席に付き、配られたパンフレットに目を通したところで
ようやくこれから観るものは演劇なんだということに気がついた。


 幕が開くと衝撃の舞台だった。死刑囚達が刑務所の中でも希望を持って生きるカッコイイ話だ。
その日初めて観た森崎さんはある場面では叫んでいたが、ある場面では静かに語っていた。
シゲさんはタクマを逃がそうと必死だったし、苦悩していた。
音尾さんは懸命に走っていた。走って走って走りまくっていた。
大泉さんはテレビで見る姿からは想像もつかない刑務所の所長という悪役を演じていたし、
そんなシリアスなシーンが続くかと思えば安田さんの変態芸を存分に披露するシーンというか
コーナーがあり、客席は爆笑を通り越してうねっていた。とにかくどこから観ても衝撃の舞台だが
何より衝撃だったのが、彼らが全員北海学園大学の卒業生だということだった。
「北海道の札幌に、しかも自分がこれから入る大学の先輩に、こんなにすごい人たちがいるんだ。」
何も始まるはずのなかった僕が一歩踏み出してみようと思うきっかけになった。





 ていうか何であんなに東京に行きたかったんでしょう、今じゃ札幌が1番大好きですけど(笑)。
出会いやきっかけなんていつどこに転がっているかわからないもんですわ。
結局春って何かが始まっちゃう季節なんでしょうね〜。