木原音瀬

木原音瀬テンテイの雑誌掲載作品の単行本化を待ち望んでいるファンは結構多いと思います。
テンテイは比較的寡作で、書き下ろしも限られた雑誌にしかなさらない、非常に地味な作家活動をなさっています。公式HPのブログからアタシが勝手に推察すると、ついこの夏までは独り暮らしをしつつOLとBLを兼業してらっさったようでした。今はおそらく仕事を辞めて実家に戻られたのではないでしょうか。このところの発刊ラッシュがそれを示しているように思います。

ROSE GARDEN ―ローズガーデン(1) (Holly Novels 01)

ROSE GARDEN ―ローズガーデン(1) (Holly Novels 01)

ROSE GARDEN ―ローズガーデン(2) (Holly NOVELS)

ROSE GARDEN ―ローズガーデン(2) (Holly NOVELS)

2004年に廃刊になったオークラ出版の小説アイス、という雑誌で2000年に連載していた作品が、書き下ろしを含めて単行本化されました。2冊で完結。
ボーイズラブ雑誌がクソ程乱立している今のご時世に雑誌の休刊、というのは珍しいことではありません。休刊までの数冊をアタシも購読してましたが、地味で大人しめながらも丁寧な仕事をする作家さんが多く参加していた印象が強かったので、休刊は非常に残念でした。この小説アイスの場合「アイスノベル」というレーベルまでなくなってしまったんですね。テンテイはかなりの作品をこの雑誌に書き下ろしてましたので、新しいレーベル「Holly Novels」で単行本化されると知ったときは本当に嬉しかったです。
ただこの「Holly Novels」、まるで木原テンテイのためだけに立ち上げられた感が強いのですが、実際どうなんでしょうか。少なくともレーベル一冊目〜四冊目は多分ずっと木原テンテイ作品です。まぁいずれにせよテンテイの作品がどんどん単行本になるのは喜ばしいことなので、テンテイは勿論編集さんも印刷のおじさんも皆揃ってまんばっていただきたいです。あとついでにビブロスさんにもまんばっていただいて、昔の雑誌掲載作品をちゃっちゃと単行本にしてくれれば、言う事なしですね。


という訳で次回発行分。

あいの、うた (Holly NOVELS)

あいの、うた (Holly NOVELS)

楽しみに待ちましょう。


以下、ネタバレ感想をちょろっと。




木原さんのファンタジーって初めて読みました。
そもそもボーイズラブからしてファンタジーのひとつではありますが、この話みたいに世界観の設定からまるっきり異世界、つうのは初めてだったんでかなり戦々恐々としながら読み始めました。なにせ舞台が現実世界のときでさえ人傷沙汰がバンバン飛び出す木原作品ですから。「法律」や「常識」という”枷”がないファンタジーの世界で物語が展開するということは、いつ何時アンビバレントのバランスが崩れて、その結果誰が(例えそれが主人公クラスであってさえ!)死んでもおかしくない、命までは落とさなくとも死ぬ程辛い目にあわせられる、という非常に危険な条件下に置かれましたよ、という宣言でもあるわけです。ブルルこわいこわい。アタシャ人死には嫌いだよ。


案の定ばったばた人は死にます。しかも結構な残酷描写付きで。
更に主役2人は一つ屋根の下で肩を寄せ合って暮らしていますが、特に愛し合っているわけではありません。木原作品によく出てくるパターンのカッポゥですな。自己中心的で視野狭窄な典型的「嫌な奴」に、献身的な愛をひたすら捧げる「愛し過ぎる奴」のお話です。読んでて辛いですよ。だって読んで読み終わって、その先に必ずハッピーエンドが待っているとは限らないんですから、木原作品は。例えテンテイの心積もりとして「らぶらぶ」だったり「あまあま」だったりする物語でも、読者にとっては全くそう映らない場合だってあるんですから。そこがまたなんとも他に変えがたい魅力のひとつでもあるわけですけれどもね。油断するなよ、と。ボーイズラブだからって、まるく収まると思うなよ、と。


結局ハッピーエンドなんですけどね。
だけどそこは木原作品、あとがきまで油断出来ませんよ。

(前略)こういう雰囲気で書きたい…と思っていても、書いているうちにどんどんと話が逸れて、出来上がった時はまったくの別物ということが大半なのですが、今回も例に漏れずそうでした。
 私はきっちりとプロットを立てるほうではないので、出来上がりは『書いた時』に随分と左右されてしまうので、早く取りかかればよかったのですがいかんせん腰が重く…。もう少し早く書いていたら、●●●*1は不幸になっていたような気がするので、今頃でちょうどよかったのかと思わないでもないです。

もう十分に不幸だったと思いますけれども?!これ以上どうやって彼を不幸のどん底に叩き落とす気だったのでしょうか。音瀬…おそろしい子…!(白目


正直言うと、終わり良ければ全て良しったってソコまでの道のりが辛すぎるし長すぎじゃね?という気がしました。この場で一番書きたいのは最後のメデタシメデタシ部分ではないのだな、というのが読んでいる途中で見え隠れしてしまって軽く落胆しました。その気持ちはわからないでもないけど、読者が居る以上ある程度の『辛さ』と『甘さ』のバランス配分は必要なんじゃないですかね〜。それか「メデタシメデタシ」という字面だけで満足な妄想を膨らませる事が出来なかったアタシに問題があるのかもしれませんね。イチからジュウまで話して君!


そういえば小説アイス休刊前の作品群は、どれも粒揃いな不幸…というよりエライ迷走っぷりだったような気がします。タイトルからして凄いの。「牛泥棒*2。これボーイズラブですよね?!これ男と男のラブファンタジーですよね?!
そのあと前後編で掲載された「秘密」」*3という作品はドロドロ悶々エロで何だかぼんやりとしたサスペンスでしたし、続き物だった「箱の中」」*4「檻の外」」*5は、まんま刑務所の中と外の話です。これに出てくるキャラが木原作品史上随一の「愛し過ぎる奴」で。挿絵が草間さかえテンテイだったこともあって、全体的に濁った灰色風味の物語でしたね。大好きなお話です。あいの、うた (Holly NOVELS)のあとに単行本化されるそうなので、非常に楽しみ。

*1:一応キャラ名はふせときます

*2:2003年5月号掲載

*3:2003年9+11月号掲載

*4:2004年1月号掲載

*5:2004年5月号掲載